地域のハナバチとともに

住宅街のなかにある養蜂園ですが、けっこういろんな生き物がやってきます。野鳥はもちろんのこと、トンボやカミキリムシやクワガタ、そしてタヌキもたまに。

なかでも一番興味深いのは野生のハチの類、ハナバチです。
ハナバチとは一種類のハチの名前ではなく、幼虫のエサとして花粉や蜜を蓄えるハチをまとめて指す言葉です。日本には約390種、世界では約22,000種がいて、その中にミツバチも含まれます。

2018年に養蜂園の隅っこに、このハナバチのための「家」を試しに置いてみました。

欧米で「ビーハウス」と呼ばれるもので、卵を産みにハナバチが集まってきます。
ハナバチの繁殖に役立ち、人間にとっては目の前でハチの観察ができます。知り合いから「簡単に作れる」と聞いたので廃材を使って自作してみたのです。

年の初めに設置したもののいっこうにハチが近寄る気配はなく、半分あきらめかけていた7月になって、オオハキリバチがやってきました。(写真、左下)
その後、いろんな種類のハチが次々に集まってきてビーハウスはがぜん活気を帯びてきました。10数種類を確認し、撮影することができたその一部がこれらの写真です。

端っことはいえ、いちおう東京23区内にある西荻窪でこんなにも多くの野生ハナバチを目にすることができるとは思いもしませんでした。それぞれの色や体形、生態が個性的で、ビーハウスを訪れるハナバチを見ていると興味は尽きません。

野生ハナバチの食べ物、つまり花の蜜や花粉は、じつはセイヨウミツバチの食べ物とほぼ重なります。ということはセイヨウミツバチを飼育すること、増やすことはそのぶん地域の野生ハナバチの食べ物を奪うことになります。また、花の蜜や花粉を必要とする昆虫は他にもたくさんいます。自然保護の観点からは、とくに蜜源植物が少ない都市部でのセイヨウミツバチ群の飼育は適正な群数を慎重に見極めて行わなければいけません。

野生ハナバチは地域の貴重な天然資源のひとつです。その存在を知ってからは、自分が飼っているセイヨウミツバチが彼らと共存できているかどうかを考えるようになりました。機会があれば積極的に話をして、ハナバチについて地域の人に知ってもらえるようにも努めています。野生ハナバチの生存を脅かさない都市養蜂のあり方をこれからも探り続けていきたいと思います。

『都市で進化する動物たち』
メノ・スヒルトハウゼン(Menno Schilthuizen)著,草思社 ,2020/8/18
“ところが、今日では、形勢は逆転した。田園では、機械掘りの真っすぐな水路で分割された畑地や植林地は過度に手入れをされていて、単位面積当たり収穫量を無理にでも最大化するような農法が行われている。こうした農地においては、生物多様性を育む余地など、ほとんど、あるいは全く残されていない。このような不毛な、幾何学的に分割されたランドスケープと比較すれば、裏庭、屋上庭園、古い石壁、草で覆われた排水路、そして都市公園などがないまぜになった、都心の乱雑な環境は多くの野生生物にとっての安息の地なのだ。”

「善福寺公園探検隊〜ハナバチに会いに行こう〜」(2019年8月10日)でハナバチについて話をさせていただきました。
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