農薬のミツバチへの影響
おいしいハチミツを収穫するにはミツバチが健康であることが大前提です。ミツバチ、そして群全体が健康で活発に集蜜(花の蜜集め)を行うことで質の高いハチミツが多く蓄えられます。
しかし、ミツバチの健康を脅やかすものがいくつか存在します。代表的なものは農薬です。畑や果樹園でまかれた農薬をミツバチがかぶってしまったり、農薬のかかった花の蜜を吸って死んでしまう事故がときに起こります。
都市部においては、農地が少なく農薬散布自体行われることがほとんどないので農薬被害に遭う可能性はほぼありません。これは都市養蜂の幸いな点です。
やっかいな寄生ダニとの闘い
もうひとつ、ミツバチにとって脅威なのは体に寄生するダニです。一般的にはあまり知られていませんが、好んでミツバチに寄生するダニがいます。これが巣箱内で増えると群に致命的なダメージを与えます。正確には、ダニがウイルスを媒介することでミツバチにさまざまな感染症を引き起こします。ミツバチが次々に病気で弱り、あるいは死に、群が弱体化し、最後は群全体が消滅します。また最悪の場合には他の群にも病気が広がり養蜂場が壊滅してしまいます。
寄生ダニは、セイヨウミツバチに特有のもので大変やっかいな存在です。駆除する薬剤はありますが、最近は薬剤の効かない耐性を持ったダニが増えていて世界的に問題になっています。ダニ駆除剤とはミツバチに食べさせたり吹きかけたりするのではなく、薬剤を浸み込ませた短冊(たんざく)状の樹脂片を巣箱内に数週間つるして使います。ミツバチの体の表面に付いているダニに接触させてダニだけを殺すという優れた製品です。しかしダニはもっとも薬剤耐性を身につけやすい生き物と言われています。将来的には、薬剤耐性ダニが増えることで薬の効き目が弱くなる、あるいは効かなくなる可能性が高いので、いま世界中で養蜂家たち、研究者たちが他にダニに対抗する策はないかと試行錯誤を重ねています。
できるだけ薬剤を使わない努力
ダニ駆除剤はこれも一種の農薬ですので、法律で厳しく管理されています。使用する期間も採蜜を行わない時期と定められています。その安全性は科学的に証明されているので、正しく使用することでハチミツへの混入の心配はありません。しかし、ハチミツという食品の生産現場である巣箱内に入れるわけですから、誰しもできれば使いたくはありません。当養蜂園の場合は、まずは薬剤を使わないダニ駆除法を手作業で徹底的に行っています。それでもダニがいる場合に、ダニの増殖を抑えるタイミングにだけ薬剤を使っています。農業で例えると減農薬栽培にあたります。将来的な薬剤耐性ダニの出現に備え、薬剤に頼らない方法を模索し続けています。
養蜂も農業と同じで、薬剤をあまり使わないとなるとやはりその分手間が大幅に増えます。自宅からすぐに行ける距離に巣箱があるので、毎日のように通い観察や作業を重ね、なんとかダニの被害を免れています。群ごとの調子の良し悪し、ミツバチの健康状態に細かく目が行き届くのも小規模な養蜂園ならではです。